絵描き美容師の妄想ぶろぐ

ちょっとおかしなせかい。

あまのじゃくがきこえない2

 

 

これはあまのじゃくに産まれてきた少年の物語

bigl00kmoekasu.hatenablog.com

 

 

 

 

「あまのじゃくさん」

 

呼んだのはあまりに優しくどこか歌うような声だった

そんな風に呼ばれたことがないぼくは
戸惑った

 

「きみは、だれ?」

「わたしはおくびょうもの」

「おくびょうもの?」

「そう、わたしは人よりもおくびょうに産まれたの
あまのじゃくさん、ドアを開けてくれない?」

 

へんなひと
そう思ったけど
その優しい声のひとがどんなふうなのか見たい
って思うのと同時に
手が勝手にドアを開けた

 

「こんにちは!」


そこに立っていたのは1人の少女

言葉の抑揚と笑顔とは裏腹に
どこか不安げで寂しげな目をしていた
瞳が揺れていた

 

「きみは…おくびょうもの、なの?なぜぼくの名前を知っているの?」

「あなたはわたしのことを知らないかもしれないけど、わたしはずっとあなたのこと見てたよ
いや、あの、へんな意味じゃなくて
気持ち悪いって思うかもしれないけど、おくびょうだから話しかけられなかったけど
あなたはずっと…わたしの憧れだった」

 

……憧れ…?

頭に浮かんでくるのは当然この疑問
…なんで?
なんでぼくなんか?
ぼくのどこが何がなんで?

一切わからない

 

「わたしはみんなと違うことができない
嫌われるのも否定されるのも馬鹿にされるのも仲間外れにされるのも怖いから
いつも人の目ばかり顔色ばかり気にしてるの
あたしは何より
みんなと同じでいることに安心するの

 

でもあなたは、あなただけはいつも
違った」


「……それは、ぼくがあまのじゃくだからだよ勝手にそうなっちゃうんだ
ぼくもできることならきみになりたいよ
ほんとはひとりになんかなりたくないよ」

「だから来たの」


「えっ」

 

「わたしはおくびょうもの
みんなと同じになりたくてひとりじゃないって感じると安心してた
でもねどこか違うの、同じになんかなれないの
だってみんな違うから
きみがいなくなって怖くなってどんどんおくびょうになったよ
そしたら今度は逆にみんなにおくびょうもの!って嫌われちゃった

あはは、なんでだろうね…おかしいね、一緒だねわたしもひとりになっちゃった」

 

またきみは笑った

 

「自分を否定されるってやっぱり辛いね苦しいね
でも気づいちゃったんだ
みんなと違っていた、憧れていたあなたのことを考えたから
わたしにはおくびょうものっていう個性がある
あなたにはあまのじゃくっていう個性がある
わたしには無くて、あなたにはある
それでいいの
それだけなの

違うけど一緒だよ
ひとりだけどひとりじゃないよ
って伝えたくて……」

 

何言ってるかわかんないよねごめんね
って揺れた瞳で笑うきみはなんだか壊れそうで

糸に触れたらバラバラに崩れてしまいそうで
それでもきみは笑って立っていて

たぶん勇気を出してここまで来てくれたんだろうなってわかってしまう


「わたしもここに居るから、大丈夫だよ
ひとりじゃないよ

わたしとあなたは違うけど一緒にいられるよ
ほら、いまからひとりじゃなくなったよ」

 

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「わたし、

あまのじゃくさんのこと好き

 

あなたが自分のこと嫌いでも、わたしはあなたのこと好き」

 


生まれて初めて身体に流れる
温かくてくすぐったい気持ちを
どうしたらいいのかわからなくて

隠すように俯いて

小さく「へんなひとだね」

って呟くことしかできなかった

 

 

 

 

 

「あまのじゃくがきこえない」

 おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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